《第7回》ガン切るべきか、切らざるべきか?土屋繁裕・外科医の「手術の4原則」

ガンを宣告されれば、白血病のような血液ガン以外は、胃ガンにしても肺ガン、肝臓ガンにしてもほとんどが外科に回され、よほどの末期ガン(第Ⅳ期症状)で手に負えない場合でもなければ、まずは腫瘍を切り取る「手術の選択」を余儀なくされます。

いまの大学病院やガン専門病院の治療ガイドラインでは、次のような手順が「標準治療」とされているからです。

① ガンの疑いで入院⇒ ②CT、MRIや内視鏡による病理組織診断⇒③ ガン宣告⇒ ④手術可能と判断されたら⇒⑤早期ガンの場合は内視鏡や腹腔鏡手術⇒⑥進行ガンの場合は切開手術のみ、もしくは放射線+抗ガン剤+切開手術これで治癒すれば幸運です。
しかし、大半の患者さんがガンの再発と転移の不安におののき、やがて体の各部位にガンが浸潤、転移すると手術は姑息的な治療法に過ぎなくなりますから、強い抗ガン剤やピンポイントを狙う放射線のほか、各種の免疫療法を施すことになりますが、はたして、手術による完治力、延命効果は、いわれるほど高いのか?ガン患者にとってここが最大の関心事です。

いまは、インターネットなどでの治療情報もふんだんに入手できる時代ですが、現実に、ガンと宣告されたり、再発や転移の不安に陥ると、まず、あわててしまうものなのですね。 誰しもが迷ってしまいます。

ガンの手術には長所と同じくらいの欠点がたくさん潜んでいます。

しかし、自らの<生業否定>に繋がるような手術のマイナス面の話を、懇切丁寧に患者に説明するガン病棟の外科医など殆どいませんね。

よほど、患者がしつこく聞かない限り、「ガンは切れば完治します」といいきります。

幸いにも、僕の主治医の帯津良一医師は、外科医でありながら「医師は患者の寂しさを分からなくてはいけない」と、手術だけにこだわるのではなく、代替療法や心身療法も組み合わせた、いわゆる患者対話を第一とするホリスティック医療を目指す日本でも珍しい外科医ですが、患者がもっとも悩む「ガン切るべきか、切らざるべきか?」の選択について、ズバリ、本音で実態を明らかにしたガン専門のもう一人の外科医がおられました。

みなさんの中でもご存知の方もおられるでしょうが、癌研病院をやめて、僕がガンに罹った頃、日本で始めてのガン専門相談所「キャンサー・フリートピア」を開設。

「医師の患者いじめに騙されるな」と「ドクハラ」という流行語を流行らせた患者のための「正義の味方」のような人情味あふれる外科医でした。

残念にも5年前に過労で他界してしまったのですが、土屋医師が残した著書に、どの外科医も書かない、本音の手術選択の条件が明かされています。

素晴らしい良書ですから、ぜひ、皆さんと共に、再読して見たいと思います。

その土屋医師の名著は、ズバリ、タイトルが、「このガン、切るべきか、切らざるべきか」(NHK出版)というものです。

その中に「手術選択の4原則」=患者の判断条件をあげておられます。

① 手術による効果が他の治療より優れている

② 手術で失う犠牲の大きさと、手術で得る延命効果が見合っている

③ 根治性、安全性、機能保存で、バランスのよい適正な手術計画が用意されている

④ ①~③の条件について担当医が詳細に説明し、患者が手術に納得して同意する

さらに、この著書では、普通の外科医がなかなか喋りたがらない、手術治療のマイナス面についても分かりやすく、土屋医師が明かしています。

ガンの患者なら知っておくべき「手術の長所・短所」について解説した部分をここでは紹介しておきましょう。(詳しく知りたい人は本書を紐解いて下さい)

① ≪手術の延命効果はどれくらいか?≫

「実際は、どんなに上手に取ったつもりでも(略)見えないミクロのガンは、取り残しているわけです。

だから、手術を受けた患者さんは全員が治らないのです。(略)

時間が経てば検査で分かるマクロのガンに変身し、再発してしまいます。〈略〉

仮に手術前のガン量が二五グラムで、手術で二四グラム取って一グラム残したとします。

このガンの細胞分裂期間を一〇〇日とすれば、取り残したガン量が元の二五グラムになるには、(ニ、四、八、一六、三二で)おおよそ四回から五回の細胞分裂を要します。

つまり手術で得られる延命効果は、四〇〇日から五〇〇日という計算になり一年から二年弱となります。」

② ≪治療のEBM(科学的根拠治療)よりHBM(人間的質的治療)≫「科学的根拠に基づいた医療――

EBM(Evidence Based Medicine)が重要視されるようになってきました。〈略〉

例えばガンの手術でリンパ節郭清をするのは当たり前だと信じられていました。

ところが(略)これも科学的根拠がなかったのです。(略)万能ではないのです。

ガン治療の有効性を評価するEBMでは〈略〉

生活の質(QOL=quality of life.質の治療)を比較した科学的根拠はほとんど得られません。

しかしどんなに科学的根拠が得られても、絶対その治療でなければいけないとは限りません。

なぜなら治療を受ける患者さんは人間であり、哲学や感情が存在するからです。」どうでしょうか? じつに分かりやすく具体的に、ガン手術や治療の実態を説明してくれていると思いませんか?

僕と土屋医師は、ただの患者と医師というより、いのちの質を高めるための「人生観」で意気投合していましたから、その後、「医師と患者で作った ガン治療入門」(NTT出版)という共著も出版しまして、中で、土屋医師は盛んに「EBM(Evidence Based Medicine)治療よりHBM(Human Based Medicine)治療」を提唱し、手術、抗ガン剤、放射線だけにこだわるのではなく、遺伝子療法から代替療法まで、幅広い選択肢の中から、人間本位の「合わせ技」のガン治療を薦めたわけです。

(詳しく知りたい人はこちらも読んでみてください)

もちろん土屋医師は、器用なタイプの外科医で、癌研病院でも700人にのぼる患者を執刀してきた人でしたが、残念なことに、若くして他界されてしまわれましたが、ガン専門相談所の「キャンサーフリートピア」は後輩の三好立医師がついでおられます。

納得して延命力を掴むには、「治療のマイナス面も教えてくれる医師」いや「患者の寂しさを分かってくれる医師」を探す――、これがとっても大事なガン患者の法則なのですね。

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